「言いたいことが言えない」仕事に悩む患者さんへ|訪問看護で支えた“気づき”と小さな一歩のサポート
「仕事がうまくいかない」「言いたいことが言えずに悩んでいる」──そんな気持ちを抱える人は少なくありません。
特に訪問看護の現場では、日々の生活や体調だけでなく、“仕事”や“人間関係”に悩む患者さんと深く向き合うことがあります。
今回は、実際に私が訪問した患者さんとの関わりをもとに、「小さな行動を起こす5ステップ」を活用した精神的なフォローの具体例を共有します。
「前に進めない」その心に、どう寄り添い、どう気づきを支援するのか——そのヒントを、この記事に込めました。
🌱 実際にあった患者さんとのエピソード
職場で意見を伝えることができず、「何も言えない」と自責感に苛まれていました。
「こんなこと誰にも言えない」「我慢するしかない」と口にしながらも、心の中では誰かに気づいてほしいという気持ちがにじんでいました。
この方に対して、私は「小さな行動を起こすための5ステップ」をベースに、精神的なサポートを行いました。
🧠 小さな行動を起こす5ステップとは?
このステップは、「心が疲れた人」が少しずつ行動を取り戻すための道しるべです。
- 気づく: 自分の感情・思考に目を向ける
- 許可する: 今の状態にOKを出す
- 小さく動く: 最小限の行動を設定する
- 振り返る: やってみた結果を確認する
- 調整する: 次に向けて工夫を考える
以下、このステップを実際にどのように支援に使ったのか、具体的にご紹介します。
① 気づく|「自分が我慢していた」ことを言語化する
まず大切なのは、「あ、自分は今つらいと思ってるんだな」と患者さん自身が気づくこと。
- 「それって、どんな気持ちになりましたか?」
- 「本当は、どうしたかったと思いますか?」
そう声をかけることで、「私は我慢している」「本当は伝えたかった」という言葉が初めて本人の口から出てきました。
この“気づき”こそが、改善の第一歩です。
② 許可する|「言えない自分」もそのまま認める
患者さんは「言いたいことが言えない自分が情けない」と言いました。
私はこう返しました。
「それだけ、職場でがんばってきたってことじゃないですか?」
「誰にでも、言えないことってありますよ」
すると、少し涙ぐみながら、「そう言ってもらえるの、初めてです」と言われました。
自己否定ではなく、自己受容を促す。それだけでも、心の動きは変わります。
③ 小さく動く|「言えない」ではなく「書いてみる」から
いきなり職場で意見を言うのはハードルが高い。
そこで私は、「今日、伝えたいことを1行だけメモに書いてみませんか?」と提案しました。
すると、手帳に「○○さんのやり方にモヤモヤしていた」と書き、それを私に見せてくれました。
それは、“言えなかったこと”を「初めて出せた」瞬間でした。
④ 振り返る|「やれた事実」に自信を持ってもらう
- 「書いてみて、どうでしたか?」
- 「少し、楽になった感じはありますか?」
「言葉にすると、自分でも整理できました」と話してくれました。
ここで重要なのは、「それができたこと自体がすごい」と伝えること。
行動に対する“できた”という実感が、次の一歩を後押しします。
⑤ 調整する|「次は誰に伝えてみようか?」を一緒に考える
最後に、私はこう尋ねました。
「この気持ち、職場の誰かに伝えられるとしたら、誰が一番話しやすいですか?」
「○○さんなら少し言えるかも」と返答。
その一言で、“少しなら話せるかもしれない”という希望が生まれたのです。
🎯 支援者が意識したい3つのポイント
- 「正す」のではなく「寄り添う」
- 「できていない点」より「できた点」に注目する
- 「変える」ではなく「戻れる支援」を意識する
心が弱っている人ほど、「変わらなきゃ」と焦りがちです。
でも本当は、「戻ってこれる安心感」こそが継続の鍵になります。
🔁 未来の自分へ|また悩んだとき、ここに戻ってきてください
🌿 自己肯定感を取り戻すための言葉
- 言えなかった自分も、守るためにそうしていた。
- 行動できなかった日は、「休む力」が働いていた日。
- 無理に前に進まなくていい。ただ、自分の声を聴くだけでいい。
- 今、苦しんでいるということは、あなたが真剣に生きている証拠。
🧭 立ち止まったときのチェックリスト|小さな行動5ステップ
- 気づく: 今、自分はどんな感情にいる?
- 許可する: その感情に「ダメ」と言っていない?
- 小さく動く: 今できる最小の一歩は何?
- 振り返る: 今日できたことに、ちゃんと気づけてる?
- 調整する: もっと自分にやさしくするにはどうしたらいい?
完璧にやらなくていい。戻ってきて、またここからやり直せばいい。
あなたには、何度でもやり直す力があります。
まとめ|小さな行動が“自己信頼”につながる
言いたいことが言えない。
それは、心が安全じゃないからです。
まずは支援者が安全基地となり、「自分の思いに気づいてもいい」と思える関係を築くことが、第一歩になります。
今回の患者さんも、最初は「何もできない自分が嫌」と言っていました。
でも今は、「少しずつなら、自分も進めるかも」と思えるようになっています。
“小さな行動”は、ただの行動ではありません。
それは、「自分は動いていい存在だ」と自分に許す行為です。
この記事が、同じように悩む誰かの支援や、日々の看護のヒントになれば幸いです。